障害者芸術文化活動支援事業の一環のSOUPの研修。石巻のカルチュアルツアー「震災と復興と障害のある人とアートと」で案内人をつとめさせていただきました。震災直後に代表の柴崎さんがまだエイブルアートジャパンを立ち上げる前に出会い、支援学校の子どもたちや、ボランティア不足だったアドベンチャークラブの活動を手伝ってもらった喜びは本当に忘れられないのです。その時はほとんどのボランティアが震災復興に流れ、小さな団体の子どもの余暇支援などには手が回らない中で、少しでも楽しい活動を、と支えていただきました。あれから8年、私も変化し、街も変化しました。
その日は、放課後等デイサービスあっぷるじゃんぷさんの訪問からスタートし、子どもたちの活動としてのアートの話をたっぷり聴かせてもらいました。代表の野中さんの熱い想いにより、イラストレーターである斎藤寛子さんがアートディレクターとして継続的にこどもたちのアート活動を支えています。集中することの難しい子どもたちが少しずつ自分の制作活動を楽しめるようになるまでの小さな気づきと努力、その視点には子どもたちの発達と自立への強い確信のようなものがありました。子どもたち自身を信じている対等な人間関係。実は自立には最も重要な要素です。
その後、街の中を歩きながらかなり急ぎ足で、就労継続支援B型事業所きゅうさんへ。所長の北村さんとは最近の出会いでしたがその淡々とした取り組みの素晴らしさに惹かれ、「日常をHAPPYに」というごくごくあたりまえで尊い理念のもとに、それが本当に関わる人たちの表情にこんなにも現れている事業所ってあるだろうかということを感じ、ご紹介させていただきました。「アート活動をしていない」とおっしゃっているものの、ショップには感性溢れる商品が並び、ギャラリーにも丁寧で繊細な作品が並んでいます。あらためて「アート」の意味を考えさせられながらいると、「すみませ〜ん、湯元耳鼻科ってどこでしたっけ?」という通りすがりの女性が入ってきたり。詳しい利用者さんに聞いたり、ワイワイと話しながら、それでも淡々と仕事は進んでいく。こんな風に働けたら楽しいな、と純粋に思えるのでした。
工程表にはなかったものの、石巻の街においてはここをやはり紹介しなくては、とirori ishinomakiさんに寄り道しながら震災後の街の変化と、街の人々との関わりについて矢口さんにお話を聴かせていただきました。まるで偶然出会ったかのような素敵なシチュエーション。「福祉」は本来すべての人の幸せのためにあるもの。初めから枠はないはず。こういうみんなの居場所に、あたりまえに障害のある人が関われるという街づくりをしたい。そのためには福祉や教育がグイグイと広げていくのではなくて、じんわりとすべてが「街に関わる人」として存在できるような広がり方や理解のされ方が私は好きで、本当になんとなく一緒にいて心地よいよね、っていう場所を作ってくれているのは本当に嬉しいのです。
さて、旧観慶丸商店を通りすがりながら次は、社会福祉法人祥心会の素敵なレストランいちへ。「はたらく」と「生きる」と「表現する」そして「食べる」っていいバランスで研修できたのかもしれません。「美味しい」って素晴らしい。気持ちが満たされること、幸せを感じること、それって五感をしっかり働かせて味わうことなんだろうな。
アートスペースKaiは、実は今回の研修でほとんどの方が「初めて見た!」という場でした。祥心会のほとんどすべての事業所の方々が、「余暇」として利用するためのアートスペースを、元わらび座の団員であった黒田さんがほぼお一人で構築している場所です。黒田さん率いる太鼓チームの演奏は、Light it Up Blueや地域交流祭などで見たことはあるものの、実際に日常ではどんな風に活動しているのかを見る機会がなかなかありませんでした。楽しそうにリズムを刻み、踊る利用者の方々、何よりも楽しそうに過ごしているその風景と、農業倉庫であったスペースが実にいいコントラストなのです。とらわれないこと、生み出すことの楽しさと自由さ、そしてそこにもやはり絶対にこの活動が好きだと思っている黒田さん自身の信念が存在しているのです。
どの場所でも感じた「信念」これは、間違いなく自分たち自身がその表現活動や居場所の力を信じていること、自分自身がしっかりとその活動に向き合ってきたという思い、それがあたりまえに障害があろうがなかろうが、大事にしていることは同じだよね、と信じている強さがありました。そして、障害のある人たちを支援しているという気持ちよりも、表現活動をする「仲間」、あるいは働く「仲間」としての対等な関係を作り上げてきたことが、最終的には一人一人が「自立」に向かう力をつけているのだと感じます。
そもそものバックグラウンドが、今回の案内人の皆さん自身がアーティストなのだと感じました。しかも、本当に自分自身と向き合ってきたという意味ではプロフェッショナルの集まり。福祉や教育の世界では、こうした皆さんと共通言語を紡げずに距離を感じたり、私にはできないと感じたり、あの人は特別と感じたり、それもまた障害になって「アート活動」が遠くなったりしていることも事実。しかし、本来は一人一人の幸せな表情を読み取り、小さな日常の出来事をしっかりと捉えて、その人自身のできることを支えたり、広げたりするプロフェッショナルの集団が福祉関係者、教育関係者なのです。そこには必ず共通語があるはず。その言葉をつなぎながら、すべての人が自分の表現をのびのびとできる世界をつないでいきたいと思いました。
あらためて自分自身の仕事についても説明しにくいなと感じましたが、それでも一人でも理解したり興味を持ってくれたら嬉しいなと感じています。