子どもたちも大興奮のぼたもち堂(坂部認)のジャグリング

「あなたの得意なことは何ですか」という問いは、面接や初対面での自己紹介で繰り返し質問される。小さい子どもは、「パズルが得意」「足が速い」「ダンスが得意」「お絵かき」とか、わりとスラスラと答えてくれるのだが、大人に質問すると、「いやあ、これといって、、、」「なんでしょうねえ」なんて誤魔化したり、「ハイ!私の得意なことは誰とでも仲良くなれることですっ!」とか、面接的正解を言ったり、大人って生きにくそう。

私は書道が得意だし、TANEのプログラムディレクターである坂部くんはジャグリングが得意。ところで、「特性」とは、「得意不得意」と言い換えることはできるのだろうか。ということを今回は考えてみたい。

前回までにご紹介した、K-ABCWISC–Ⅳなどで用いている知能(IQ)の考え方とはまた異なる、多重知能理論(Multiple Intelligence理論。以下、MI理論)という理論がある。これは、ハワード・ガーデナーが1983年に提唱した理論で、従来の知能という概念を大きく前進させたと言われる。彼の理論によると、人間には8つの知能がある。これまた、ざっくりとご紹介する。

①言語的知能:言語処理、文章力、言語習得
②論理・数学的知能:数学的問題解決、推理、仮説検証
③空間的知能:空間認知、視覚、美術、デザイン
④音楽的知能:音楽、聴覚、リズム
⑤身体運動的知能:運動、身体表現、ダンス、手先の器用さ
⑥対人的知能:コミュニケーション、共感、会話
⑦内省的知能:メタ認知、思考力、自己分析
⑧博物的知能:図鑑的、分析、分類

これで言うと、すべての人が何らかの得意分野が8つの中にあるのではないだろうか。「得意といわれてもねえ〜」と言っていた大人も、この8つの中からだと、何となく選べる気がする。そして、この8つを見るとモチベーションが上がる気がするのだ。つまり、どの知能にも優劣はない。私はこれが得意、という入り口から学びが展開することで、自分に負荷がかからない。

このMI理論を活用した実践も工夫され始めている。MI理論を授業に活用するメリットとして、
・援助者:①個や集団の理解が深まる。②対象に応じた効果的な援助が可能。
・学習者:③ストレスなく考えを深められ、主体的に行動できる。
という、3点が挙げられている。

日本の子どもたちの「学力の問題」というのは、言語的知能と論理・数学的知能のみをベースにした「授業の問題」ではないか、と考えている。特に、中1ギャップと言われる状態は、小学校では実技も含めた教科の位置付けが対等だったのに対し、途端に「主要5教科」、「受験に関係するか」のような大人側の都合により、発揮できていたはずの知能が抑え込まれるという状態が生まれている気がするのだ。

わたしは小学校で、とことん図工と書道だけで、自信をつけさせてもらった。むしろそれしか記憶にないくらいの子ども時代で、中1になっても迷わず美術部(書道部がなかった)に入った。しかし、中学校という場所は「頭が良くて素直」「運動部で根気がある」という人間を作る場所なんだな、と悟った。美術部や書道で入賞したところで、県大会4位には到底価値が及ばないとか、美術や家庭科の筆記試験で100点を取っても、国語や数学のそれとは比にならないとか。

自信のない学校嫌いの中学生である。わたしの場合は、「これでいい」と自分が思っていたということと、信頼している大人も、「これがこの子」と思っていたので、中学3年生の進路希望調査でさえ、「芸術家」と書いて、保護者欄に母も「芸術家」と書いて提出し、担任に二度見された。ちょっと絵が得意、書道が得意、くらいでここまで調子に乗れる親子はあまりいないかもしれない。

脱線したが、このMI理論に基づいた授業づくりや学校教育の仕組みは、UDL(ユニバーサルデザインの学び)を可能にするし、それはまさにインクルーシブな場になると思う。なぜならそれは、いろいろなタイプがいる、というのが大前提の世界になるからだ。そしてもう一度言うが、優劣ではない。発達障害の子どもたちの支援現場で、「特性」という言葉を用いると、それは「得意不得意」という要素よりも、「困っていること(劣っていること)」に焦点を当てられがちだ。そうではない考え方の一つとして、良い理論だと思っている。

特性を理解することは、単にその子の才能や能力を発揮させるということだけではない。人間は決して一人では生きられない。そして、人間は決してすべての感覚と認識を共感し、わかり合うことはできない。だからこそ、「互いが違う人間であり、互いの得意不得意があるのが当たり前で、だからこそ補ったり強め合ったりできるのであり、そのためにチームがあるのだ」という根本的なことを理解していない限り、簡単な言葉で「集団生活に慣れないと今後困りますよ」なんて言ってはいけないと思う。

その一言、協調性を重要視しすぎる仕組み、一定の価値で評価する教育、それ自体が、隠された生産性至上主義、隠された優生思想、格差社会の根本なのではないかとさえ思う。

参考:MI理論を活用した教育実践〜小学校高学年の主体的な学びを促す工夫
   未来の教育が目指すもの–Multiple Intelligences Theoryに基づく教育の普及


     







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櫻井育子(さくらいいくこ)
生涯発達支援塾TANE 代表(コーディネーター)

宮城県石巻市出身。特別支援教育士。書道師範。東北福祉大学福祉心理学科を卒業後,宮城教育大学の大学院で障害児教育を学ぶ。インクルーシブ教育の研究をしながら,ソーシャルスキルトレーニングの団体で発達障害のある子どもたちと出会う。2003年に石巻市で,任意団体「NPO石巻広域SSTの会アドベンチャークラブ」を立ち上げる。小学校,特別支援学校の教諭経験後,2016年に退職し,「生涯発達」の視点から教育,福祉を考えるコーディネートチーム「TANE」を主宰。ひとりひとりの違いを楽しんで生きる社会の実現を目指しています。

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