こちらも前回の研修で質問されていたもの。メタ認知への質問が多かった。回答になっていないであろうことを承知の上で、メタ認知について深めてみたい。

 他人のことはよく見える、という構造になっている人間の身体。目、というのは外部の情報を処理するもので、わたしたちはいかに普段から外部の情報に左右されて生きていることか。自分のことが一番よく分からない、、、なんてことはよくある。「分からない」と言えればまだいい。ほとんどの人が、「分かった気になっている」だけかもしれない。

 実は今回の疑似体験も、それ自体がメタ認知を促す研修である。「やばい、焦る!」という体験をした後に、「どうだったか」を言語化し、それをペアワークによって伝えさせる。「自分はこう感じたのでこういう行動をとった」という振り返りができ、さらに「じゃあそういう気持ちにならないためにはどうすればいい?」と解決策を考える。これは、自分自身の感情をメタ認知するという「メタ認知的モニタリング」ができたことになる。そして、その後のワーク等で「ああ、これはこういう感情を引き起こされるのだな、ふむ、では焦らないようにしよう」などと分析しながら受けることができた、などといういたって冷静な方は、まさに「メタ認知的コントロール」によって自己統制したということになる。

 つまり、小難しい言葉で「メタ認知」などと言っているから分かりにくいだけで、「自分の感情について①把握し、②言語化し、③正しく処理する」ということだと思えば簡単である。これがなぜいま、大事だと言われているのかも、重要。「自分の感情を受け入れ、対応する」ということは、多様性を生き抜くための重要な力だと言われている。多様な価値観と出会った時に、いちいち「ゆるせない!」「信じられない!」などと言っているようなメタ認知不足のリーダーでは、この世界で生きていくのが難しいということだ。様々な価値観の優秀な(奇抜な)考えに触れながら、それらを感情的ではなく対話し、よりよいものを作り出していくような業界では、感情と思考をしっかりと切り離して行動することが求められる。

 ちなみにこうした世界のトップリーダーたちは、だいぶ前から「マインドフルネス」や「禅的思考」などを取り入れたメンタルトレーニングをしている。これらがつまり、「メタ認知能力」を高めるということに気付いていたからである。そう考えてみると、メタ認知が意識されるためには、明らかに「自分」と「他者」が異なるという前提からスタートしなければならない。「あなたはどう感じたのか」をしっかりと意識するような問い。これらを幼少期から意識された子どもたちは、比較的年少期から、メタ認知能力が高く、感情のコントロールができる。つまり、自分を一人の人間として扱われてきたタイプの子、ということである。

 よくあるSSTの技法、コミック会話や感情の書き出しなども有効なことは多くある。が、すでに学年が上がって自己肯定感が下がってくると、子どもたちはそこでも「正しい解答はなんだろう」ということばかり気にしてうまくいかないこともある。模範解答のようなことを書くのに、実際には行動できず、感情処理ができないタイプの子が多い。言語化ができるからと言って、行動ができるかというと、そうでもないというのが、人間の難しさである。

 メタ認知をより深く知るためには、「人間観察」はもっとも重要かもしれない。研修を受けることの前に、まず自分の周囲にメタ認知力が高い人間がいるかどうかを探ることをおすすめしたい。特に支援現場では、およそ「メタ認知」とは程遠い人たちも一定数存在しているのも確かである。とくに、ハラスメントを起こしやすい人。これは本人が無自覚であることが多いために、自分がいかに相手に嫌な思いをさせているのか気が付かないのである。もちろん、ハラスメントは「無知」が引き起こすことも多い。しかしそれも、自分の思い込みを手放さず(疑いもせず)盲信しているために起きると考えると、「はたして自分の今の発言は良かっただろうか」という振り返りができないというのは、メタ認知(とくにメタ認知的モニタリング)ができていない、ということである。

 周りにも、いないだろうか。不機嫌な態度をとっておきながら、自分は何も悪くない、自分がいつも正しい、あわよくば不機嫌な態度によって周りをコントロールしようという人が。そういう人と一緒にいることで、無自覚に傷ついたり相手の機嫌を取ることに一生懸命になり、感情を殺している人が。いずれの状態も、メタ認知不足である。

 メタ認知能力を高めるべきは、支援者である。自分自身がそういう態度を取ることはないだろうか。思い込みや、自分の価値観だけを押し付けたり、対話しようとしなかったり、話し合いを避けたりしていないだろうか。
 メタ認知能力の高い人は、総じて「機嫌がいい」のが特徴。周りにご機嫌な人が多いな、と思ったあなたは、メタ認知ができている証拠かもしれない。だいたい人間は似たような感覚で集まりがちである。I’m OK,You’re OK。

「人の振り見て我がふり直せ」とは、昔の人は本当によく言ったものだなあと思う。まずは、大人がメンターとなって、「自分の感情をしっかりと話す」態度を身につけること、相手が誰であろうと、「わたしはわたしなのだ」と言えること。子どもたちはよく見ている。メディアに登場する政治家も、周りの大人も、自分の努力不足を棚に上げたり、文句ばかり言って何も変えようとしていないことを。そういう意味では、「自分の苦手なことを知っておき、それについて自分が受け入れている(誰のせいにもしないし、自分を責めない)」という大人に出会えると、子どもは生きることが楽になるのだと実感している。

おすすめの研修は、手前味噌ではあるが「2022つなぎめ講座ヤタイ」。不定期に行う予定だが、これまでの講座でもほとんどの回に「メタ認知」というキーワードが出てきている。わたしたちにとってはかなり重要な「成人発達」のキーワードである。単なるスキルアップではない、「視点」として身につけられるかもしれない。
また、「演劇」という手法を使ったワークは実はとてもメタ認知能力を高めるのによいと感じている。「自分の取る行動の理由」「そのときの感情」などを、「演じる」ことによって表現するという体験は、実にメタ認知的だ。ぜひ、授業の中や日常で、小さな実験をして、楽しく学べることが一番だと思う。

おすすめの本は
・「わかる」とはどういうことか―認識の脳科学 (ちくま新書) 新書 2002 /山鳥重
・わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か(講談社現代新書)2012/平田オリザ
・こうやって、考える(PHP研究所)2017/外山滋比古
・ブレインドリブン-パフォーマンスが高まる脳の状態とは(ディスカバ−21) 2020/青砥瑞人

本質的な理解をするためには、「ノウハウ」では身につかないと感じている。メタ認知を高めるトレーニング本やノウハウ本も多数出ているので、そういったものと上記のような本を組み合わせて読むことをおすすめしたい。

 

 

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櫻井育子(さくらいいくこ)
生涯発達支援塾TANE 代表(コーディネーター)

宮城県石巻市出身。特別支援教育士。書道師範。東北福祉大学福祉心理学科を卒業後,宮城教育大学の大学院で障害児教育を学ぶ。インクルーシブ教育の研究をしながら,ソーシャルスキルトレーニングの団体で発達障害のある子どもたちと出会う。2003年に石巻市で,任意団体「NPO石巻広域SSTの会アドベンチャークラブ」を立ち上げる。小学校,特別支援学校の教諭経験後,2016年に退職し,「生涯発達」の視点から教育,福祉を考えるコーディネートチーム「TANE」を主宰。ひとりひとりの違いを楽しんで生きる社会の実現を目指しています。