支援者の気づきを可視化する

福祉現場や対人援助の現場では、特に「だれがどんなことを考えてそこにいるのか」ということが重要になってくる。支援者同士のやりとり、コミュニケーションの上手い下手、あるいは好き嫌い、合う合わない、といったようなことに気をとられることも多い不思議な現場でもある。(人間らしいと微笑む程度であればよいのだが)

通常のビジネスであれば、多少気にいらない、合わないなという相手でも「結果を出す」とか「数字を出す」とかいった目に見える目標に向かうことで、そうしたパーソナリティの部分については多少気にしなくて済むかもしれない。

ところが、そもそも「人対人」という現場である以上は、「なんであの人の接し方はこうなんだろうか」「もっとこういう態度でいればいいのに」「なんだか冷たいわね」などと個人的な部分が実は仕事そのものに密接に影響していたりする。

もっと言ってしまうと、「人対人」の現場で会議をすると、本来は「意見」ということで尊重されるべきものが、「感情論」となってしまい、結果、「言いたいけれど言えない」という泥沼化。これもよくある。建設的な意見交換というものが成り立ちにくいのだ。それも、個人のコミュニケーションという個人的な部分が大きく関わってしまうからなのかもしれない。

さて、そんな対人援助の仕事をしている支援者たちだからこそ、自分自身がどんな感じ方をしている人間なのかということを明らかにする必要がある。そこで、組織への支援として取り組んでいるのが「価値観を見える化するワーク」という研修の方法で、支援者同士でどんなことを感じ、考えているのかを明らかにしていくという研修を行う。アセスメント2.0の考え方から、双方向の理解を進めていくためのアセスメントでもある。

「言いたいことが言えない」という日々の問題を、ワークを通して個人の価値観を可視化することにより、「この人が大事にしているのはこんなことなんだな」と、支援の方法や活動に生かしていくこと。「性格」やら「感情」やらの個人的な部分から抜け出し、「価値観」という共有可能なものを見つめることになる。

私たちは、自分たちにあるものしか表出できない。そこで、言語化しやすい内容の「問い」を繰り返すことによって、自ずと価値観が見えてくるのだ。コーディネーターの仕事は、できるかぎり感情でなく、その人の「価値観」に触れるような「問い」をいくつも考えながら、それを現在の課題にすり合わせながらワークを進めていくということになる。そして、共有されるべき「本質」に迫っていく。

例えば、「なんで元気に挨拶しないの?覇気がない」というベテラン支援者。元気のないある若い支援者に不満があったのだ。「あんなに毎日テンションが高いと接していて苦しくなる」という若い教員。絶対に交わらないこの思考の二人だが、「挨拶とは何か」という問いを通して、ある変化が起きる。「気持ちの良いやり取りをするためのはじめの会話である」ということが価値として示されると、自分の挨拶の態度が、双方には気持ちよくないということに気がついた。本質的な問い、というものから、互いの気づきに変わった瞬間である。つまり、感じ方が様々なのだと分かるだけで、自分の思い込んでいる世界が絶対だと思えなくなる。これこそが「価値の多様化」である。ただ「いろんなことを考えている人がいる」というのではなく、普遍的なもの、本質的な課題に迫ることで、価値観が多様であることを認められるようになるのだと思う。

自分自身を見ることはもちろん、それによって相手のことも自然に理解できるようになるので、チームとしてのバランスも見えることで肯定感が高まるなどの副次作用もある。回数を重ねるごとに、自分自身というものへの価値や、今ここにいる意味なども見えはじめ、非常にいいチームになっている場所もある。そうなると、活動の展開はどんどん独自に回り出す。また、今まで気づかなかった個人の良さに気がついたり、とても温かな場になることが多い。

一方通行の勉強会はもはや時代遅れだ。参加型、対話型が叫ばれて久しいが、やはりまだまだ講義型の研修会は多い。脳のしくみからしても、「インプット」と「アウトプット」が同時にできる方が身につく。アクティブ・ラーニングなどという方法も、大人にだって当てはまるのだ。知識を身に付けたいなら本を読めばいい。皮肉な話だが、講義を受けて支援が変わるなら、もはやこの世界(福祉と教育)はもっともっといい方向に向かっているはずだ。

双方向の学び、双方向の研修。その充実を目指し、TANEの研修は進化し続けたいと思う。

※少人数から企画できます。詳しくはぜひお問い合わせください。組織、チーム、支援力向上、活動プログラムの方法等の研修講師、ファシリテーターの依頼を承ります。

価値観を明らかにしていくと活動の本質に気づく

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櫻井育子(さくらいいくこ)。宮城県石巻市出身。特別支援教育士。宮城教育大学大学院障害児教育専攻修了後、小学校、特別支援学校の教諭を経験後、発達支援の現場が生涯を通した支援が不足していることに気付き、福祉と教育と地域を横断する人材を育てるためのコーディネーターを行なっている。得意分野は遊ぶことと書道。NPO石巻広域SSTの会アドベンチャークラブ代表。

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