近年、さまざまな脳科学の研究結果が、教育や社会生活に役立つ知識としてだいぶ広がりつつある。「メタ認知能力」という言葉も、そもそも心理学用語であるが、最近では子育て分野、教育分野、ビジネス業界などでも注目されている。

 私がメタ認知という言葉に出会ったのは、今からちょうど20年前、心理教育アセスメント(K-ABC)の勉強会である。メタ認知とは、簡単に言ってみれば「自分をもう一人の自分が見ているという認識」であり、それは「知っていることを知っている」「認知していることを認知している」というもの。つまり、自分のことを客観視できる能力である。

この「メタ認知能力」が高いということは、
・自分を客観視して情動コントロールができる。
・自分の得意不得意が分かる。
・今、何を、何のためにすべきかが分かる。
・何を話し、伝えればいいのか目的的に話せる。
・自分が何をすべきかを判断して動くことができる。
といったように、仕事の面でも学習の面でもメリットは多い。メタ認知能力を高めることで、セルフアセスメントが容易になる。自分のことが分かるということは、それだけ立ち居振る舞いが楽になるということでもある。

何かをしようとすると自分を見失ってしまい、パニックになったり、感情が支配してうまくいかない、など、コミュニケーション面や生活面で困難を抱えている人は、わりとメタ認知が弱い場合が多い。中には、あまりにも自分が見えすぎてしまって大変(自己認識が高すぎて過敏)というタイプもいるのだが、それは前回話した「過敏な人たち」で述べているので、ここではあえて「自分が見えていない人たち」について話をしたい。

自分のことが見えていない、という問題はさまざまなところで問題を引き起こすのだが、問題は、その本人が自分の問題だと認識できないという部分にあるので、ますます難しい。メタ認知が弱いまま大人になるということは、「自分が思っている自己認識と世界観だけで生きている状態」となるので、主観的な自分と主観的な相手からなる本人だけの見えている世界で動き続けてしまうということである。

「話が噛み合わない」「自分の非を認めない」「自分がいつも正しいと思い、責められると被害妄想気味になる」「何度言っても間違いが繰り返される」など、それだけ取り上げてみると、社会生活や対人関係での大変さが想像できる。しかし、本人としては「なぜ自分ばかり怒られるんだろう」という認識にとどまることが多いので、「何を言っても響かない」と諦めてしまうこともある。

もしかしたら、こうしたタイプの方々が周りにもいるという人も多いかもしれない。または、ときにはこういうタイプになってしまうという人も。疲れている時ってこういう自分になってしまう、、、と思った方もいるかもしれない。ということは、トレーニング次第でこのメタ認知は鍛えられるということでもある。脳の可塑性は無限である。

疲れたときの脳を思い出してほしい。疲れると人は視野が狭くなり、思考が限局的になり、自己中心的になる。被害妄想的になり、理論ではなく感情が支配する。思考より身体的な感覚に囚われる。

メタ認知が弱い人の日常は、この「疲れた脳の状態」である。情報や刺激が整理整頓されずにどんどん入ってくる。脳内で一人でコールセンターのような一対一対応をしているような感じを思っていただければ想像しやすいかもしれない。「全体をつかむ」ということが難しいので、やっていることが支離滅裂に見える。しかし、本人の脳は常にフル回転である。それなのに、「ちゃんと考えて行動しろ!」などと言われてしまうのだ。

メタ認知を高めるためのひとつは、疲れた脳の反対のことをしていく習慣をつけていくこと。そのもっとも重要なものが、「コールセンターのような対応をしない」という状態に脳を持っていくこと。つまり、情報や刺激を「対応しよう」とせずに、「受け止めていく」という禅的思考である。これを、「マインドフルネス」という。

対応しようとしないで、今何が起きているのかをじっと観察し、その刺激を自分がどう認識しているのかに目を向け、関心を寄せること。実は、常に他者の目を気にしたり、叱責の多い環境で育ったりすると、こうした習慣が作られずに、「考える前に動いてしまう(心も体も)」という場合がとても多いことに、子どもたちや大人の観察をして気がついた。ものさしが自分にないまま育ってしまうので、「他人は見えるが自分は見えない」という状況を生む。

マインドフルネスは様々な方法があり、瞑想やヨガ、呼吸法などあるのだが、「書道」もマインドフルネスの方法としてお勧めしたい。もちろん段級をとるために評価をもらう書道教室そのものではなく、大人にとっては「墨で書く」という行為そのものが瞑想の効果があることに気が付いた。じっくりと自分と向き合い、手本を見てただ書くという行為。そして自分自身で「よし」と納得するという行為。

それ以外にも、メタ認知を高めるトレーニング方法や研究は最近はたくさんでてきている。もし関心のある方はぜひ取り組んでみてほしい。

6月20日(土)18:00〜20:00に、書道塾たねでは「大人のマインドフルネス書道」を開催予定。予約制ですが関心あればぜひお問い合わせください。

また、対人関係、コミュニケーションなどで不具合や困難さがある子どもから大人まで相談も行なっております。また、人間関係、メタ認知のトレーニングや研修等の相談も承っています。

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櫻井育子(さくらいいくこ)
生涯発達支援塾TANE 代表(コーディネーター)

宮城県石巻市出身。特別支援教育士。書道師範。東北福祉大学福祉心理学科を卒業後,宮城教育大学の大学院で障害児教育を学ぶ。インクルーシブ教育の研究をしながら,ソーシャルスキルトレーニングの団体で発達障害のある子どもたちと出会う。2003年に石巻市で,任意団体「NPO石巻広域SSTの会アドベンチャークラブ」を立ち上げる。小学校,特別支援学校の教諭経験後,2016年に退職し,「生涯発達」の視点から教育,福祉を考えるコーディネートチーム「TANE」を主宰。ひとりひとりの違いを楽しんで生きる社会の実現を目指しています。

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